相模原グリーンロータリークラブ
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相模原グリーンロータリークラブ
第578回例会週報

577回 | 579回 | 2004-05週報目次
◆我が社の事業承継
内田 茂一 会員

 1964年、学校を卒業して、ようやく就職した会社を半年で退職して、父の経営する会社に飛び込みました。戦後19年を経て、東京オリンピックが開催され、高度成長期の始まる時期とは言え、日本人の暮らしはまだまだ貧しいものでした。我が社の社員は、新入社員の私も含めて3名で有り、作業場は5坪位の土間のみでした。我が社が特別に貧弱だったかと言うと、自慢は出来ないけれど他社だってみんなチョットましな程度でした。そんな業界でした。変な話ですが、私はこの仕事が好きでは有りません。その後ずっと嫌いで、今も好きでは有りません。

 1979年、父のあとを継ぎ社長に就任しました。社員数が*名、年商が*,***万円でした。そして今第一線を退き、会長に就任しました。社員数**名、年商**億*,***万円です。業界もずっと大きくなりました。
 バブルが崩壊して数年を経ても、一向に将来の展望が開けない、言葉で表現できない怖さにとらわれていました。このままではつぶれるという開き直りで今迄の常識を捨て、会社の改造計画を発案しました。1995年、グリーンの皆様に知り合う3年前です。以下現在に到る迄の話を少しさせて頂きます。

95年時点での現状認識
◎従来のままでは業績はじり貧になる。
◎大きく変化を求められている。
◎成功体験・経験はマイナス要因である。
◎守りに回ってはいけない。
◎新しいスキルと自己の責任でチャレンジする人材が必要。
◎強固な企業体力作りと属人的でないビジネスモデル作り(経営システムも含め)。
◎最長65歳迄に事業の承継を終わらせる。(2006年迄)

1.96年 会社改造計画スタート
1−1 確実に利益を出せる企業にする。
◎継続的に利益を出せる体質作り。
 売上高経常利益率 10%以上
◎国際化を意識した、自社のポジションの確立。

1−2 後継者の育成と経営権の委譲
◎社員の若返りを図る。
 平均年齢を10歳下げる。
◎65歳迄に経営権の委譲。
 2006年9月迄
◎資本の委譲。具体的方法論

1−3 ビジネスモデル作り
◎属人的技能を分析して、踏襲できる技術とする。
◎ムダを排除して効率の良いシステム作り。
◎生産性の50%アップ。
◎損益分岐点の改善。

1−4 経営環境
@プラス要因
◎半導体関連で有る為、成長余力が大きい。
◎一次協力企業なので、仕事内容の多様性と差別化の優位性が有る。
◎客先からの高度で厳しい要求。
◎競合他社も同様な弱点を共有する。
Aマイナス要因
◎バブル崩壊により、成長を前提とする経営の弱点が顕在化。
◎3K産業の為、人手不足の慢性化。
◎低付加価値業績に加え、コストダウン圧力の増大による収益の悪化。
 現状は経常利益率 3.6%
◎業界特有の大きな繁閑の差。
◎職人の技に頼る為に、低生産性の割りに高給料と高年齢化(平均45.2歳)。
◎若年層の確保と定着難。
◎技能伝承が難しい。
◎国際化の中での空洞化による受注難。
◎過当競走による価格の下落。
◎後継者育成の難しさ。
   :
   まだまだ沢山ある。

2.改革の方策
2−1 社内コンセンサスの確立
◎激しく早く変化する事を求められる時代の中で、危機感の共有と目標の実現力を身に付ける。
◎やってもやらなくても平等でよいのか→公平と言う概念の確立。
◎年功制を廃止して、成果主義への移行。
 人事考課システム作成 能力発揮給制度
 98年3月より運用開始

2−2 社員の採用と新旧社員の教育
◎中途採用に徹して20歳〜25歳の未経験者のみを積極的に採用する。(人手不足は解消する。)
◎女性社員が力を発揮できる環境作り。
◎責任と権限の委譲。
◎社内外でのセミナー受講。
◎OJTでの教育。
◎マニュアルの整備。
◎質の高い人事担当者の配置。
 96年に採用
◎中堅幹部の力量向上。

2−3 成果に繋がるスキルアップの方法
◎属人的な技能を分解して短期間でマスターする。

「例」 ベテランの技能 一人前になるのに10年以上

 各スキルを集中的に作業させることにより短期間で修得させる。
 その後ローテーションにより多能な社員を短期間で育てる。
@長所
◎短期間で成果が出る。
 会社−生産性改善により増益
 社員−仕事が身に付くので、短期間での収入増。
    達成感が得られる。
    目標が明瞭になり励みになる。
◎修得技能に差が出るので競走して仕事をする様になる。
 休憩時間の活用。
 早出・時間外の無報酬での研修。
◎採用時に多様な選択が出来る。
◎ポテンシャルの低い社員の自主退職により、定着率の向上と全体のレベルアップが図れる。
◎ベテラン社員が危機感により活性化する。
◎変革に対する自己啓発。
◎情報を開示することにより雰囲気の明朗化。
A短所
 愛情を持って、公平に指導すれば短所は少ない。

2−4 ビジネスモデル作り
@生産管理システム 構築の主眼点
◎お客様をお待たせしないシステムで有ること。
◎オペレーターの介入を極限まで減らし、操作が簡単で有ること。
◎成果、問題点が誰でもすぐ見られること。
◎情報が共有化できること。
◎新規受注品でのノウハウがリピート受注時に即時反映できること。
◎進捗管理/売上管理/在庫管理/協力会社の管理/履歴管理が行えること。
◎生産システムと整合性が有り連携が取れていること。
A生産システム 構築の主眼点
◎お客様のコストダウンに対応しながら利益率の改善が図れること。
◎お客様のQ.C.D.Sに満足していただけるシステムで有ること。
◎ネットワークをフルに活用して、事務所主導の生産が行え、段取りレスを追求できること。
◎個人のスキルに左右されない安定した生産活動が行えること。
◎実績のデータをフィードバックしたマトリックス的に活用できること。
B海外戦略

3.成果
 経常利益率、損益分岐点、平均年齢、社員の所得水準がそれぞれが著しく改善された。

4.事業の承継
 改造計画がスタート以来、なかなか成果は顕われませんでしたが、3年を経過した頃から社員年令の若返り化、教育、品質、納期、生産性の向上、収益の改善等、総ての課題が著しく改善されて来ました。
 99年に全社員を対象に後継者について次の4項の選択肢を掲げ、理解を求めました。

@社員の中から育てる。
 希望者が有れば受付ける。
A私の知人に委ねる。
BM&Aで売却する。
C2010年を目途に清算する。

 上記の4案のうち、@が上策である旨を話すと、2名の立候補が有りました。私の腹案にも叶っていたので、その方向で進むことにしました。

4−1 教育
@専任のコンサルタントに依頼する
◎1年間、週2回、各2Hのスケジュールを作る。
◎会社とは何か、財務諸表、人事システム、中期経営計画作成等を受講させる。
AOJTによる実践
B項をOJTで経験をさせて適性を判断、社長候補と補佐役に峻別した上で、本人並びに全社員に周知徹底する。
C経管環境の最良の時期を2004年8月と見極め、それ以前18ヶ月間実務の大部分を任せ経験を積ませる。

4−2 社内外へ理解を求める
  社内のコンセンサスは5年間に渡り繰り返し丁寧に行って来ましたが、2名のベテラン社員と1名の若年社員が退職しました。協力会社さんは、永年の信頼関係で全く動揺は有りませんでした。金融機関も快く了解を得ました。お客様は多少難色を示しましたが、最終的には前向きの理解と今後の取引の密接化と言うことで、交渉は終了しました。

4−3 スキーム作り
  事業の承継は単に第三者に経営を委ねるだけではなく、資本も移動して実質的な経営権も譲る事と考えています。しかし、彼等にはお金が有りません。私は現在、麻Eチダを含めて2社の経営を行っています。
  そこでもう1社を設立して、その会社を活用して資本の移動を円滑にする事を考えました。以下にそのスキームの基本方針を述べます。
@事業承継スキームの基本方針
◎会社の経営権、所有者(株式所有)いずれも早期に新しい後継者に承継する。
 具体的には代表取締役をO氏として内田一族関連の株式所有割合51%以上を移転する事を今回のスキームの目指す姿とする。この時下記に留意する。
◎現社員全体の公平性に配慮する。
 ・実現の為に新会社を設立。その際に従業員が広く株主になる機会を提供する。
 ・製造部門の転籍を実施し、自らの会社であるという意識付けを強く行う。
 ・新代表者であるO氏の個人資金負担は極力軽くするが、会社の資金調達に関する重責を負う。
◎O氏新会社のファイナンスの現実性を重視する。
 ・新グループ体勢を構築することにより、新会社資金調達に余裕を持たせることを考慮する。
 ・新会社設立により、O氏個人の資金調達負担よりも会社調達の現実的なファイナンスの仕組作りを考える。
◎内田のキャッシュフローも現実的な必要度を考慮する。
 ・退職金等の活用により、創業者利得の実現化も図る。
 ・I社の機能を活かし、配当収入等で承継後の所得を考慮する。
A期間的には2年後(2004年)に目指す姿に到達する事とする。
 ・内田が調整役とサポートをしながら、O氏が新社長として実績を積む期間を設ける。
 ・商法の事後設立等の規程にふれることなく承継をスムーズに行う。

4−5 実施に際しての留意点
@新社長の経営に関する明確なビジョン作り。
A社内外ともに存在感を明確にする。
B会長と社長、社長と他の役員との適切な役割分担。
C軌道に乗る迄の会長による、人間関係、取引先との関係作り等に対するバックアップ。