相模原グリーンロータリークラブ
↑ トップページへ ↑

相模原グリーンロータリークラブ
第518回例会週報

517回 | 519回 | 2003-04週報目次
◆自然観察に夢を求めて
農学博士 大谷快夫 氏

 21世紀は環境の時代だといわれる。自然にふれ、自然を知り、それらを形成する環境要因を理解しながら、保全につとめることが重要であろう。
 今日はこのようなテーマで身近かな自然探索の興味について、お話したい。

 はじめにこの分野で生涯学習を貫いた2人の著名な学者の活動にふれてみる。博物学者であり、ことに昆虫の習性や生態観察にとり組み、停年後から90才代の晩年に到るまで観察と記録に終身学習を実践したジャン・アンリ・ファーブル(1823〜1915)、と植物の分類を中心に国内各地を巡り、採集調査を行い生涯を植物誌や植物図鑑の編集に賭した高知県出身の牧野富太郎(1862〜1957)である。
 ファーブルについては、マルテイン・アウアー著、渡辺広佐訳「ファーブルの庭」に、牧野氏については「牧野富太郎自叙伝」に記録されているので参考にされるとよい。

1.日陰(地際)に咲く花
 多種のものがあるが身近かな植物として、古くから庭園に栽培されるハランがある。ユリ科に属する中国原産の多年生常緑草本で11〜12月頃、根茎部より小梗を出し3〜4月頃土に埋もれながら、筒状または盤状の花を開く。花の直径4cm位で、まさに秘められた花といえそうである。また多摩丘陵や丹沢山系周辺にみられるタマノカンアオイはウマノスズクサ科に属する植物で、晩秋より早春にかけて半ば地に埋もれて、ひっそりと淡褐紫色で筒状の径3〜4cmの花をつける。一般には観察されがたい花である。地上に咲く多くの草花類と比べて、晩秋から早春にひっそりと地際に咲くこれらの花の生態観察もまた自然観察の興味となるだろう。

2.地中の菌類
 ツチダンゴと呼ばれる地下生菌がある。子のう菌類に所属し、子実体は3〜40mm球形またはダ円形、褐色〜黒褐色をしている。地中での生息菌のため生態には不明の点が多い。
 このキノコの存在は、これらに寄生する冬中夏草菌の発生によりわかる。ツチダンゴの種類には、ツチダンゴ、アミメツチダンゴ、クロツチダンゴ、キツチダンゴ、…など数種が知られている。またこれらに寄生する冬中夏草には、ハナヤスリタケ、タンポタケモドキ、エリアシタンポタケなど数種が知られている。地下生菌の発生や生態解明は自然観察の愉しみといえよう。

3.土壌中の菌類の生態
 土壌中には無数の微生物や菌類が存在することに畑地では、土壌病害を誘発する病原菌など多くの菌類が生息している。これらを生活体系から(1)根系依存菌と(2)腐生菌とに区分できる。(1)はいわゆる植物根の栄養を給源とするもので、根に直接または周辺土壌に多く分布する。(2)は一般に土壌中の植物残渣や有機質、腐植などを栄養源とするものである。
 土壌中の菌類は環境条件の影響が大きく、変化に対応して、休眠形態や耐久体を形成する。土壌中における菌類の所存、消長や動向などを知るため検出、定量が行なわれる。

4.冬中夏草の1種オサムシタケの発生を追って
 農地の一部にオサムシタケの発生をみてから十数年となる。発見が難しいと云われるが比較的身近かに発生している。「冬中夏草」の著作清水氏との交流を保ちながら、分類上の所属をめぐって、完全世代の発見につとめているが、まだ有性世代といわれるオサムシダンポタケにはめぐり会えない。不完全菌か子のう菌か分類上の所属をめぐって、オサムシタケの発生観察は現在も続いているが、こんな夢を描けるのも自然観察のおかげと感謝している。