相模原グリーンロータリークラブ
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相模原グリーンロータリークラブ
第493回例会週報

492回 | 494回 | 2002-03週報目次
◆地上最後の楽園を訪ねて
浮田 實会員

 毎年実施している有志による旅行案内が届きました。開けてみますと、北欧旅行に関する案内でした。北欧は国際学会の帰路なんどか立ち寄っていましたが、計画のなかにグリーンランドが含まれていましたので参加させて頂くことにいたしました。グリーンランドの住民イヌイットには血栓性疾患がなくむしろ出血傾向がみられるということが知られていました。私の研究テーマが血液擬固学ですので以前から興味があったのです。

 グリーンランドの先住民であるイヌイットには心筋梗塞が非常に少ないことが知られていました。そのイヌイットがデンマークに移りすむと、高率に心筋梗塞を発症することからこの差異はデンマーク人に比較して血液中にエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)が非常に多いことが判明しました。

 EPA、DHAは不飽和脂肪酸でいわし、さば、さんまなど青魚類の脂質の中に含まれており、出血を防ぐ血小板の働きを抑制します。従って、EPAを多く摂ると出血傾向があらわれます。イヌイットはEPAを多く含む陸のカリブー、海のアザラシ、セイウチ、シロイルカ、クジラを主用な食料源としているため、血栓性疾患がなく、むしろ出血傾向がみられるのです。

 計画では正味6時間の観光で30万円と割高でしたが私にとってはお金に変えられない魅力があったのです。イヌイットはどんなところで、どんな生活をしているのかこの眼で確かめたかったのです。

 グリーンランドは世界最大の島で全島の約80%が氷に覆われる極北のツンドラ地帯で居住出きる土地は海岸部に限られています。沿岸部の温度は一番暖かい7月には10?20Cになります。

 1721年デンマーク人ハンス・エヘデが植民地を開き、デンマーク領となっています。一年の大半を雪と氷に閉ざされているため農耕は出来ません。この土地に住むイヌイットの主たる産業は毛皮獣の狩猟です。

 私共はノルウェーのレイキャビクから50人乗りの飛行機で約2時間の飛行でグリーンランドのラルクスに着きました。着いた飛行場はもとアメリカ軍が使用していたもので、施設も滑走路も場末の飛行場とでも表現したくなるようなものでした。飛行場からイヌイットの住む町までの交通機関は夏は徒歩あるいは、ヘリコプター、冬はイヌゾリだけです。したがって各々の家にはイヌゾリ用の犬が棒で繋がれていました。私達は8月にいきましたので、犬に近づかないようにと注意を受けました。イヌイットにとって貴重なアザラシの肉を夏季、用のない犬に充分与えないために、空腹の為、凶暴になっているためだそうです。

 空港からは、ハイキング用の靴を履き、専ら徒歩で約1時間かかりました。その間人家はまったくみられません。

 ここまで述べてきたようにグリーンランドは全く孤立した町で、文化の恩恵をあまり受けていないようにみえました。デンマーク政府も現地の住民に任せているようで、あまり文明の光が入るとカルチャーショックをおこすとか。

 イヌイットには血栓性疾患がみられないのは、主たる食料が海産物といった偏った食糧事情によるものであることが解っていましたが、現地を訪ねてみて納得できました。海産物の他は、アザラシの皮と物物交換によって手に入れているそうです。

 私達一行は昼食を取るためたった一軒のレストランに入りました。日本の大食堂単位の規模で、期待していたアザラシの入ったスープもありました。早速食べようとして口に近づけましたが、特有の臭いがあり口に入れることが出来ませんでした。基本的に食習慣が違うわけですから当然のことかもしれませんが、心筋梗塞になるのがいやならばこの生活習慣を見習う必要があるのかもしれません。

 町中の広場で、澄んだ空気のもと、嬉々として遊んでいる子供たちは健康そうで、カメラを向けるとニッコリ笑う様子はとても可愛らしく思え、むしろ羨ましくさえ感じました。

 娯楽といえば町でただ一人の吟遊詩人が唯一の楽器、団扇太鼓をたたきながら即興詩を踊りながら歌うもので、子供達も楽しそうに見ている姿はとても平和な印象をうけました。

 私達は日帰りでしたが、帰りは小さな釣り船に分乗して空港近くまで乗せてもらいました。この漁師さんたちはひょうきんな人達で海上に浮かぶ大きな氷塊の近くを通ったり、仲間の船に近づいたりと私達を楽しませてくれていました。

 当地を訪ねるまでは文化の光の当らない、厳しい気候の地で生活することは大変だなと想像していましたが私達が訪ねたときは暖かく、時間もゆっくりと過ぎているように感じました。たしかにグリーンランドは生活するには厳しい所であろうと思いますが、そこで生活している人たちをみていますと、今まで持っていた先入観念などすっかり消えてしまいました。文化的なにおいは全くありませんが、人間同士が人間らしい生き方を見たときに地上の楽園とはこの様な国のことではないかなと痛感しました。


受賞おめでとうございます。

マルチプル・ポール・ハリスフェローの佐藤会員、金子会員
ポール・ハリスフェローの高橋会員