相模原グリーンロータリークラブ
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第541回例会週報

540回 | 542回 | 2003-04週報目次
◆絵本と山の話
沢野 ひとし 氏

〈プロフィール〉
 ワニ目の愛称を持つうまへた絵とも言われるイラストレーター(絵本作家)
 椎名誠の代表作「哀愁の町に霧が降るのだ」の登場人物で弁護士の木村晋介らと共同生活をしていた。
椎名誠の小説の挿し絵は沢野ひとしさんが描いています。怪しく意味不明な画風と、青春小説風な画風を使い分け、最近では谷川俊太郎氏と本を出版しました。

 僕は今町田市に住んでいて30年近く、今井先生の所に通って20年近くになります。
 肩書きは画家ではないんです、職業としては自由業で、挿し絵画家、イラストレーターとして税務署には登録しています。自由業というのは、僕の友人にも多くて名刺にイラストレーターとか挿し絵画家とか書くのですが、ある程度、収入がないと挿し絵画家とは言えないんです。全国で僕みたいな仕事で成り立っている人ですが、本当に少なくて50〜100人くらいなんです。町田ではイラストレーターという肩書きで登録している人は私の他もう1人くらいです。

 去年福音館書店「みんな なにが すき?」という本を出したのですが、僕が子どもたちを見て何が好きなのかな? と思っていろいろ聞くと最後はなんて言うのかなあ、冬なんかによくお尻でぶつけますよね、ごつんごつんと、ああいうのを幼稚園で見てて、ああ、一番おもしろいのはこういうことなんじゃないか、僕も小さい頃「ごっつんこ」というのをよくやってやはりそういうものが一番面白いものだと思います。日本のあと、この本が韓国で出たんです。僕は韓国語は知らないのですが、韓国のこどもたちにお母さんが読んでいる時に聞いていたんですが、わからないけどすごくきれいな言葉に感動しました。去年はフランスに行きました。「タップ タップ」これ「ごつん ごつん」という言葉でそう言っているんですが、その本をオートモンという出版社で出しました。その時向こうの幼稚園に行ったんですが、とにかく子どもたちがさわがしいんです。先生が何度も言って読みました。

 僕は15年くらい、ヨーロッパアルプスのアイガーで大きな事故を起こしました。
ちょうど岩登りみたいにして登る山なんですが、ヘリコプターで運ばれました。僕は日本の山はほとんど登っているんですが、山登りはほとんど下りで事故が起きるんです。中高年の登山は下りに気を付けないと、危ないな、と思ったらゆっくり降りるべきです。頂上からは、ザイルというのがあってそれを岩に引っかけて降りるんですけど、僕はせっかちな性格で、みんなを待っていればいいのに、どんどん降りていってしまったんです。その時落っこちてしまったんです、夏ですが下が氷でした。あぁ、しまったと思いましたが、ピッケルを使ってももう止まらないんです。急斜面で、長い距離を落ちました。

 岩登り用のヘルメットをかぶっていたんですが、髪の毛がわっと立つのがわかるんです。ああダメかな、と本当に思いました。その時女房の顔が浮かんできました。15秒くらい落ちたのですが、たまたまテラスがあってそこにドカンと落ちたんです。脳しんとうを起こしていて寒さで震えていたんですが、スイスのガイドが近くまで来てくれ、ヘリコプターを要請してくれて、1時間くらいできて、あげてくれました。グリンデルワルドというところの病院にヘリが着陸しました。そこの病院は朝からコーヒーが出たり、スイスの病院なんですが、食事がいいのでびっくりしました。となりがドイツ人で、彼は2階から落ちたそうで、両手両足骨折の全身打撲でたいへんでした。彼が「おまえ、アイガーから落っこちたんだって、新聞に出てた」と教えてくれました。その病院には2週間いました。インターラーケンから出た時は、本当に良かった、と涙が出ました。費用も保険に入っていたので、心配ありませんでした。

 去年スイスに行ったとき、女房といっしょにその病院を訪れました。その時僕のカルテがあったんです、15年前にここに入院していたんだけどわかりますか?と聞いたら、その時の先生はもちろんいなかったんですが、カルテは残っていてすごく感動しました。いろいろと思い出しました。その病院が日本の病院とはまったく違ったたたずまいで、それは本当にきれいなんです。なぜかな? と思ったら、それは職員が手入れをしているのではなくて、病院にお世話になった人やその地域の人たちがボランティアでお花などを管理しているのだと聞きました。地域の中にそういう人がいるんですね。先日その病院に私の絵本を10冊送ったところ、そうしたらすごく喜んでくれて、窓のところに貼ってくれた写真を送ってくれました。また本を送ったことがまた地元の新聞に掲載されました。

 今僕は、何度もフランスに行っています。絵本というのは不思議なものでアマチュアでもダメだが、絵のすごくうまい人でも子どもたちにわかりづらくてダメなんです、。子供の絵本を作る人というのは若い人含めて、たくさんいるんですけど、プロとして成り立っている人ももちろんいるんだけど、他はプロではないんです、いわゆる漫画家みたいなああいうものでもないし。

 国際的なものは英語で書かれています。編集者がそれを翻訳します。海外でも日本の絵本はたくさん出ています。海外でよく質問されることは「北野たけしどうしてる?」「安藤忠雄はどうしてる?」「アラーキーはどうしてる?」ということです。

 その3人が、50代で、私も50代後半ですが、フランス人は50-60代の人生が一番面白いと必ず言います。
なぜ日本では、3万人以上の自殺者が出ている。一番楽しい時なのに、どうしてそんなに死んでいるのか?と聞かれます。ローン、破産、いろいろと原因はあるのでしょうが、僕は答えようがなくってもうちょっと人生面白くした方が良いのではないかと本当に言われるんです。山登り、野鳥の会とかそういう方の楽しみも充実させていきたい。

 2/27から3月までパリに行くんですが、パリを中心に本を書くために行きます。フランスの日本人会では、日本人だけが集まっているんです。他の国では無い、みんなは趣味で集まっている、ゴルフとか山登りですとか。日本人は団体行動ばかりでつまらない、というがそういう中で頭角を現して来た人、個性を発揮した人は、逆にすごく才能があると思います。逆にフランスは、芸術家はいないんです、いそうだけれど全部外から来ています。カルチェとかルイ・ヴィトンもそうだし、ピカソもそうですね。

 グランデコールという学校があってカルロス・ゴーンさんなんかが出ているんですが、ここは最高学府で東大の百倍くらい難しい。卒業生は官僚にすごく入る、芸術だとか例えば自動車のデザインを作るだとかには入らない、少ないんです。
ここは卒業した瞬間に官僚に入ると給料が2.5倍くらい高いんです。

 フランスが芸術家を育てていると思うかもしれませんが、実はそうでもなくて、日本の方が出版も含めて僕みたいのも何となくやっていけるし、アジアの中からも研修に多く来ているし、日本はずっと悪いと思っていたが、実はそうでもないのでは、と最近は思っています。フランスでは職人、現場の人、も誇りを持って働いていることを感じます。カフェに毎日行っていたら、いつの間にかいつも座る窓の席を予約してくれているんです。日本ではアルバイトですからこう機転は利かない、フランスでは先ほどのグランデコールを卒業した人も、いわゆる職人、例えばコーヒーを入れている人、料理を作っている人、そういう人もすごく誇りを持っているな、と感心します。そこは見事ですね。

 現在日本では若者のカード破産、自己破産が多い、簡単にしてしまう。社会的な地位が無くなってしまいますから、日本も若い人達に職業の訓練所みたいなものを作ってやってはどうか?と思います。

 最後に自分の息子のことですが、、町田の定時高校に行きました。4年立って卒業して、とび職の会社に入って10年です。建築業界は今非常に厳しくて、数年前より給料が半分になってしまっています。でも主任になって、少しほっとしています。