本日はお招きいただき、誠にありがとうございます。
縁あって、大野隆雄前会長には、昨年大変お世話になりました。
11月は児童虐待防止推進月間で、シンボルカラーがオレンジ色となっています。10月中旬、ある所で奥様にお会いした際に、「市役所前の桜並木や総合保健医療センターをオレンジ色にライトアップできたら」とお話しました。「予算は?」と聞かれたのですが、「1円もありません」と。ところが、それからわずか2週間後の11月1日に相模原市電設協同組合の地域貢献事業の一環でオレンジライトアップが実現したのです。
この場をお借りして大野前会長に感謝申し上げますとともに、皆さまにご披露する次第です。
さて、子どもたちは今、様々な危機にさらされています。虐待、いじめ、不登校、非行、校内暴力…。そして、親の育児不安も増大しています。また、アメリカの金融危機に端を発した世界的経済不況の波が日本にも押し寄せています。リストラ、借金、離婚、病気、自殺…。こうした社会情勢の変化が家族にも子どもたちの生活にも影響を及ぼしています。
今日は、子どもと家庭を取り巻く諸問題と、依然として大きな社会問題となっている児童虐待の現状と防止対策の取り組みをご報告いたします。
1 子どもと家庭を取り巻く状況
(1) 進行する少子化
出生率の低下:昭和52(1977)年に1.80だった合計特殊出生率が30年後の平成19(2007)年には1.34。人口を維持するためには、2.08が必要といわれている、この出生率。国立の人口問題研究所によると、仮に平成16年の出生率1.29人で今後も推移した場合、3200年、ついに日本人はたった1人に…。
千年先のことと言うことなかれ。3、40年後には社会に深刻な影響が出始め、その後は加速度的に人口減が進むそうです。核家族化:昭和55(1980)年に70%だった子どもとの同居率が、17(2005)年には45%まで低下しています。三世代世帯の割合が減って、核家族、単身世帯、ひとり親家庭の割合が増加し、家族が小さく小さくなっています。
家族が小さくなると、家事や育児を少ない人数で分担しなければならなくなり、一人の負担が増えていきます。自分が親になるまで赤ちゃんに接したことがないというご両親も増えています。
(2) 奪われる「子どもと向き合う時間」
女性の社会進出意欲の高まりに伴って共働き世帯の割合が増えています。17年の国勢調査によると、共働きの世帯は全国で988万世帯と片働きの863万世帯を上回り、夫婦で働き続ける世帯が多数派となっています。国の調査によると、父親の帰宅時間が午後11時を超える割合が南関東では2割以上。このように、お父さんもお母さんも忙しい。仕事・育児・家事に加えて介護も担っている。子どもさえも塾やお稽古事で忙しい生活です。加えて、部屋は個室化し、テレビが各部屋にあり、テレビゲームやパソコン、携帯電話が普及したりなど、子どもと向き合う時間が少なくなっているのが実態です。
(3) 地域のふれあいの希薄化
本市の19年中の人口増加は約2,400人。1年に2万人も増えていた人口急増期に比べれば、緩やかなとなりました。しかし、33,000人が転入し、32,500人が転出しています。1つの町に相当するほどの人口が毎年出たり入ったりしている状況の中、隣に誰が住んでいるのか分からなくても不思議ではありません。
子育て世代の多くはアパートに住み、マンションもオートロック、近所づきあいが希薄になりがちです。自治会加入率も下降し続け、20年前に72%だった子ども会の加入率も現在は、49%。実家も遠く、協力者がいない方も多いようです。子どもと家庭を取り巻く状況を色々お話しましたが、これらが児童虐待と大きく関係するのです。
2 児童虐待の現状等
当センターには、様々な相談が寄せられます。たとえば、
保育園から「登園した園児の顔が腫れている」
近所の方から「マンションの隣の部屋から尋常でない子どもの泣き声とお母さんの叫び声が聞こえる」「きょうだいでウロウロ歩いている。髪の毛はボサボサ、身なりはまるでホームレスのようだ」「小さい子を置いたままスキーに行っているようだ」
小学校からは「入学式も含め1日も登校していない。下の子の面倒をみさせているようだ」「電気や水道などのライフラインが止まっている」病院から「頭部挫傷で搬送された子どものおなかと背中にもあざがある」
保健センターから「お母さんがイライラして子どもの顔をお風呂に浸けたと言っている」「精神疾患のある母子家庭の母親が出産した。在宅で育児ができそうもない」
保護者から「子どもを可愛く思えない。首を絞めたくなる」「心中してしまうかもしれない」「100円しかないので、子どもを施設に預けたい」
虐待ではありませんが、「両親が覚醒剤で逮捕された」「母子家庭の母親が病死し、中学生が一人で生活している」というような相談も舞い込んできます。
(1) 児童虐待とは
国の調査では、平成15年から3年半の間に心中事件も含め約300人の子どもが亡くなっています。1週間に1人以上、心中事件も含めると3日に1人の割合です。しかも、この数字の背後には、たとえば乳幼児突然死症候群、心不全などで片づけられ、虐待とは気づかれずに亡くなっている子どもがいる可能性は否定できず、それらはすべて闇の中ということになります。
児童虐待は身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待の4つに分類されます。そして、児童虐待は子どもに身体的、知的発達、情緒や行動面など様々な影響を及ぼします。不登校や非行、犯罪などさまざまな問題の影に、過去または現在進行形の虐待があるといわれています。
(2) 児童虐待は増えているか(国・県・市の状況)
児童虐待の相談件数は、国・県ともに高い増加傾向が続いています。悲惨な事件の報道は後を絶ちません。全国の児童相談所では19年度40,618件で児童虐待防止法が施行される前の11年度の3.5倍。県内5か所の児童相談所では、平成19年度1,438件で11年度の3.7倍です。
相模原市では、19年度309件で11年度28件の11倍。17年度に当センターが開設されてから、一層増加しています。このように、国・県・市のいずれも増加しています。国民や関係機関の認識・関心が高まり早期発見が進んだ結果であると捉えています。
3 なぜ虐待が起こるのか
児童虐待の発生要因は、養育環境、養育者、子どもの3つのカテゴリーに分類されます。要因は一つではなく、多問題を持つ家族は10も20もの要因を抱えています。
実際に市が19年度中に把握した事例について、分析しました。養育環境に要因があるものとしては、ひとり親家庭・未婚が最も多く98人。仕事も育児も家事、介護も一人で背負っています。内縁関係・子連れ再婚家庭が合わせて50人。愛着関係を一から形成することに難しさがあるようです。転居して間もない、地域からの孤立の合計で63人。相談できる人、協力してくれる人がいないのでしょう。
経済的不安定も47人に見られています。
養育者の状況としては、情緒不安定、性格的傾向(攻撃的、衝動的)、精神疾患が最も多く、配偶者間の暴力(DV)も23人に見られています。
子どもの状況としては、多動などの問題行動、疾患・障害、発育の遅れなどが多く、育てにくさや負担感が要因の一つとなっています。
はた目には何の問題のなさそうな家庭、経済的にも豊かで社会的地位も高くても、問題を抱えている家族もたくさんあります。大学学長、大学教授、公認会計士、建築士、エンジニア、地方自治体の特別職…。だれにでも起こり得ることを示しています。
4 親子への支援
「我が子を虐待するなんて鬼のようだ」と思われるでしょう。でも、家族はそれぞれ問題を抱えているのです。問題を抱えているから虐待しても仕方がないということではないですが、どの親も向き合って話を聞くと、親だけを責められない背景や過去があります。自分たちだけでは解決できないほどの多問題を抱えた家族もいます。また、今何が問題で、どこから整理したらいいかわからない方もいます。
そこで、私たちがそのお手伝いをし、その家族に関わる多く機関がチームを組んで支援をしています。
10人いれば10とおりの支援、100人いれば100とおりの支援があります。
例えば、「全く登校しない小学2年の男の子がいる」と言って学校から連絡が入ります。「学校を休んで下の子の面倒をみさせている。親と連絡もつかない。教育を受ける権利を侵害している。とんでもない親だ。ネグレクトではないか」と。調べてみると、母親はうつ病で昼夜逆転の生活。上の子は母親を気遣い、妹の面倒をみていました。「学校に来なさい、来なさい」と言っても、行くことができるはずはありません。その子が安心して学校に行けるようにするための環境整備、例えば母親に受診を勧め、ホームヘルパーを入れ、下の子を保育園に入れ、保育園の送迎を手伝ってくれるボランティアを調整するといった具合です。
通告は一瞬ですが、そこから長い支援が始まるのです。
5 子どもを虐待から守るための5か条
(1) おかしいと感じたら迷わず通告
子どもや家族は何かしらのサインを発しているはずです。これを周囲の人が見逃さず、速やかに適切な所に連絡することが重要です。ロータリーの「4つのテスト」。その1番に「真実かどうか」とあります。情報には事実と憶測に加え、うわさまで入っています。事実が確認できれば対策が打てるわけですが、事実の見極めは重要で難しいのです。
(2) しつけのつもり…は言い訳
「虐待ではない。しつけだ」と主張する親も多くいます。「4つのテスト」の4番目に「みんなのためになるかどうか」とあります。私たちは「子どもの立場にたったらどうか」に立ち返ります。
(3) ひとりで抱え込まない
ネットワークを活用して、家族に関わるすべての機関が連携して対応しています。
(4) 親の立場より子の立場
子どもの安全・子どもの幸せを最優先に考え、子どもにとって危険を減らすにはどうしたらいいか、そして安全や幸せを増やすにはどうしたらいいか、それが判断の基準になります。
(5) 虐待はあなたの周りでも起こりうる
ロータリアンの皆さんの周りでも起こりうる児童虐待。もう一度、ご近所やお友達、ご子息・お嬢さまのご家族にちょっと目を向けてください。家族・家庭を孤立させない地域づくりが児童虐待の予防につながる第一歩になります。
心配なお子さんやご家庭があったら、こども家庭支援センターに連絡をいただきたいと思います。本市では、平成13年3月に幼児虐待死亡事件が起こりました。あれからまもなく8年が経とうとしています。そのことを何年たっても忘れずに、子どもの安全を最優先に活動していきたいと考えています。
以上をもちまして、報告とさせていただきます。本日は、どうもありがとうございました。
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