皆さんの思い出の川、子どもの頃に遊んだ川はどんな川でしたか? 静岡出身の私にとって川といえば安倍川、そう「安倍川餅」の安倍川です。しかし日頃遊んでいたのは、田んぼの中を流れる用水路で、メダカやフナやザリガニを山ほど捕まえました。ヘビやカエルも沢山いました。掘り抜き井戸から流れ込んでくる水はとてもきれいでした。
さて、境川は城山湖を源流として相模原市と町田市の市境を流下し、江ノ島で相模湾に注ぎ込みます。都市化の中で、一時は悪臭を放つほどだった川の水も、水質は改善されてきましたが、川はコンクリート二面張りの典型的な都市河川に姿を変えています。
しかし橋本から相原にかけて、境川は鬱蒼として河畔林の中を大きく蛇行しながら流れます。この橋本地区で神奈川県による“多自然型川づくり”が始りました。90年代に入って、国は“多自然型川づくり”を提唱し、治水一辺倒だった河川改修から大きく方向を転換したのです。しかし川の現場にはその思想や技術がすぐには伝わらず、境川でも“多自然”と言いながら、河畔林が大量に伐採され、蛇行を埋立て川は真っ直ぐになり、せっかくの自然石もコンクリートで固められるなど、残念な工事が進んでいました。
どこかに参考となる良い事例はないものかと各地の川を見て歩き、様々なシンポジウムに参加する中で、当時の建設省土木研究所の島谷室長(現九州大学教授)に出会いました。境川の実状を訴えると、すぐに若い研究員を連れて駆けつけて下さいました。そして県の職員と一緒に学習会を開き、川づくりの話し合いが始りました。それから一年後、“蛇行”“河畔林”“土の岸”を残した設計素案が誕生しました。大きな“蛇行”をそのまま残すことによって、蛇行の中の“河畔林”がまとまって残りました。人家に被害を及ぼさない場所は護岸なしの“土の岸”のままとしました。また人工的な緑化はせずに自然に植被が回復するのを待ちました。この河川改修案は全国「川の日ワークショップ」で優秀賞を受賞し、全国的にも注目を集める先進事例となりました。
最近“多自然型川づくり”は“多自然川づくり”へと進化し、全国すべての河川で、川の自然な営みや、川の動植物、人の暮らしや文化を大切にした川づくりを行なう時代を迎えています。そして今、境川の町田市金森地区(上鶴間本町対岸)では旧河川敷を利用して遊水機能をもったビオトープ公園の整備が住民参加のワークショップで検討されています。また平成11年に相模原市に買上げて頂いた境川斜面緑地は「古淵鵜野森公園」として整備が進んでいますが、公園を整備する相模原市と境川を整備する東京都が連携し、「水辺のある公園」として一体的に整備ができないものか協議が始りました。
このような点々としたささやかな試みが、次第に広がり、それが当たり前のこととなる日が早く来て欲しいものです。さて私たちは五十年後の子供たちにどんな境川を残すことが出来るのでしょうか。
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