相模原グリーンロータリークラブ
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相模原グリーンロータリークラブ
第724回例会週報

2007-08週報目次
◆「酒のいろいろ)」
清水酒造(株)代表取締役 清水 太郎 様 


 お初にお目にかかります、信二郎の不肖の兄でございます。今日は弟のピンチヒッターということでお話させていただきます。

 私は酒造りをしておりますが、お酒を大きく二つに分類しますと、醸造酒と蒸留酒に分かれます。強いお酒、焼酎とかウイスキーこれを蒸留酒と考えてよろしいかと思います。醸造酒と蒸留酒は途中まで一緒なのですが、醸造酒をさらに火にかけてアルコールを抽出したものです。

 私は醸造種である日本酒を作っております。このお酒の原料である水と米のことからまずお話したいと思います。「水」でございますが、酒屋にとってこの水が一番大切なものなのです。井戸とか湖水とかには必ず亜硝酸還元菌がいます。これは酵母を殺してしまう菌なのです。昔ながらの「生?作り(きもとづくり)」ではまずこの亜硝酸菌で野生酵母を殺します。そして、亜硝還元菌は馬鹿で、この後自滅してしまう性質を持っています。自滅したところで、乳酸菌と酵母を植えつけて醸造するこれが「生?作り」です。これは現在ほとんどやっておりません、私どもは3年前にやりました、再開を考えてはいますが、現在はやっておりません。生?という作り方で酒を造るのは感がかなりの部分を占めます。この味はこの菌が湧いているなというのは舐めて知るのです。亜硝酸は濃いと人間にとっても危険なものです、この毒で野生酵母を殺し、そして後に、純粋な酵母のみを育てるというわけです。

 ところが、この亜硝酸がこの後の諸味(もろみ)に入ってしまいますと、生まれたばかりの酵母を殺してしまうのです。諸味というのは簡単に言えば、酒を造る初期段階のもので、酵母が沢山生まれ米と水とで酒を造りつつある状態です。そして、何年か前に、亜硝酸を殺す機械を買って亜硝酸を殺してから仕込みをしています。酵母というのは3時間ぐらいしか生きません。私は一日に3回聴診器をタンクに当て酵母の出す音を聞いています、タンクの中で酵母は同じような元気な音を出していますが、午後に聞いた酵母の音は朝の酵母の音ではなく次の代の音なのです。

 次に「原料米」についてお話します。日本酒の原料は皆さんご存知のとおり米ですが、酒造好適米の山田錦、ミヤマ錦などは大変値段が高いものです。これらは丈が高く粒が大きい種類で稲が倒れやすく農家が育てるのが難しい米なのです。近年は農業試験場で米の粒を小さく丈を低く改良して作りやすくなってきました。山田錦の産地丹波地方の吉川(よかわ)の米は最適米で、昔は、大手が買い占めて買うことが出来なかったのですが、最近は私どもも買うことができるようになりました。この米は炊き上がったときの香りが違います。それを「張り込む」といいますが、水につけた米を大きな蒸篭に広げるんですが、そのときの匂いがすごいです、さすがです。ただあこがれの吉川(よかわ)の山田錦の粒が小さくなってしまったことは残念です。

 酒造好適米と一般米の大きな違いは酒造好適米の中にはでんぷん質の層があります、これがあったら一般米はおいしくないでしょうが、ところが酒屋にはこれがいい米なのです。芯白といいますが、酒造好適米にはこれがあります。そして、一般米は滑らかな肌ですが、この米の肌は顕微鏡で見ると鮫肌状態です。この鮫肌状態が麹菌が米の内部に入り込むのに適しています。麹菌が米の内部に入りますと米が白くなります。麹菌が芯まで入ることを業界用語では「芯を喰った」といいます。

 次に酒造りに重要なのが気候です。酒造りは寒くなくてはだめです。寒くて喜んでいるのはこの辺では造り酒屋だけかもしれません。暖かいと諸味(もろみ)温度が上昇してそれを抑えられないのです。また、寒いと大気中と水に雑菌が少ないということもあります。諸味は20度近辺の温度で活発になります、しかし、あまり活発ですと早くアルコールになってしまい味の無いお酒が出来てしまいますが、寒さが活動を抑え、よい味のお酒を造るのです。ですから、お酒作りには寒さが大事なのです。もっとも、やたら寒ければよいというわけではありませんが。

 酒造りはいろいろな行程がありますが、人間に出来ることはお米を蒸かして、水を整えて、さあおやりさいってそこまでなんです。そこから先は酵母の仕事です。人間は最小限酵母の育成を見守るだけでいじってはいけないのです。いじりますとおかしな酒になってしまいます、最小限の諸味との接触、これに徹しなければいい酒にはなりません。そうして出来上がったものに、「アル添作業」というものをします。これは諸味にアルコールを添加して酵母の活動を止めることです。酵母のゴトゴトという音がこれで一瞬のうちにすっと消えます。この瞬間はどうも悲しいものです。

 アルコールを添加することのメリットは、アルコールはエキスを吸収しやすいので、諸味の中の一番おいしいところである米の芯のエキスをたやすく吸収します。アルコールが入った米を軽く絞ってやると、アルコールはおいしい味を背負って出てきます。強い力をかけて絞る必要が無いので無駄に米の繊維を潰してしまったりすることが無いので、理にかなった方法だと私は思います。
次に「火入れ」という作業があります。これは、アル添の後に残っている酵母を60度以上の温度を加えることで酵母を殺します。こうしないと酒はだんだんすっぱくなってしまい、酒でなくなってしまいます。こうして、酒屋は春ごろから売りに出します。

 今年の酒ですが、今年はいい年です。まず、今年のお米は硬いです、硬いということは米そのものの密度が濃くエキスが充満しているということです。昔は、杜氏は精米に時間のかかる硬い米をきらいました。また、精米の時間を早めるために、ヤスリにたとえると荒いヤスリを使って精米しましたので、お米も割れやすかったのです。しかし、今はコンピューター付の精米機で精米します。機械は時間がかかっても暗いところでもお構いなしで、細かいヤスリで、丁寧にお米を磨きます。こうしたお米を使ったお酒を今年は造ってみました。絶対にいいお酒が出来ると思います。

 私の話はスピーチではなく御託でございます、したがって結論というのもはございません。ワインにしても日本酒にしても酒屋は結構苦労して作っております。酒造りの苦労というものを少し分かっていただいて、また日本酒を飲んでいただきたいと思います。